「法律なんて、難しくてよく分からない…」
「どうせ、業者を守るためのものでしょう?」
かつての私も、そう思っていました。
探偵業法という言葉を初めて知った時、それは自分とは無関係な、遠い世界の言葉のように感じたのです。
でも、違いました。
震える手で、必死にその条文を読んだ時、私は気づいたのです。
この法律は、探偵のためだけにあるんじゃない。
あの日の私のように、途方に暮れている「依頼者」を守るためにこそ、あるんだ、と。
こんにちは、みさきです。
今回は、少しだけ難しい話に聞こえるかもしれませんが、あなたに絶対に知っておいてほしい、あなたの権利を守るための法律、「探偵業法」について、世界で一番分かりやすくお話しさせてください。
探偵業法って、一体なに?
ものすごく簡単に言うと、探偵業法とは、
「探偵が、めちゃくちゃな商売をしないように、国が定めたルール」
のことです。
この法律(正式名称:探偵業の業務の適正化に関する法律)は、探偵業の業務がきちんと運営されるようにルールを定め、それによって私たち依頼者の権利や利益を守ることを目的としています。
この法律があるおかげで、探偵社は営業を開始する前に、必ず都道府県の公安委員会(警察署が窓口です)に届出をしなければ営業できません。届出をしないで営業することは「無届営業」という犯罪になり、懲役や罰金の対象となります。
正規の探偵社は、営業所の見やすい場所に、届出番号が記載された「標識」を掲示する義務があります。相談に行く際は必ず確認しましょう。ただし、一つだけ注意してください。この「標識」は、正規の届出をしている証明に過ぎず、公安委員会がその業者の調査能力や実績を保証するものではありません。標識の確認は、あくまで業者選びの最低限のスタートラインだと覚えておきましょう。
また、誰でも探偵になれるわけではなく、暴力団員や過去に禁錮以上の刑を受けた者などは探偵業を営めない「欠格事由」も定められています。
つまり、この法律は、悪質な業者や不適格な人物を業界から排除し、あなたが安心して調査を依頼できるようにするための、国が用意してくれた「お守り」なのです。
【これだけは知っておいて】あなたを守る3つの重要ポイント
探偵業法の全てを覚える必要は、全くありません。
ただ、これからお話しする3つのポイントだけ、どうか、頭の隅に入れておいてください。これを知っているだけで、悪質な業者に騙されるリスクを、ぐっと減らすことができます。
ポイント1:契約は「正しい順序」と「3つの書面」で!
これが、最も重要なルールです。
探偵業法では、契約トラブルを防ぐために、書面のやり取りについて厳格な順序が定められています。この流れを知っておくことが、あなたを守る第一歩です。
- 【契約前】あなたから探偵へ:「誓約書」の提出
まず、依頼者側が「調査結果を犯罪や違法な差別のために使いません」と誓約する書面を提出します。探偵社はこれを受け取らなければ、契約手続きに進むことは法律で禁じられています。 - 【契約前】探偵からあなたへ:「重要事項説明書」の交付と説明
次に、契約を結ぶ「前」に、探偵社から料金体系、調査方法、キャンセル規定などが詳しく書かれた「重要事項説明書」が書面で渡され、説明を受けます。この段階で内容に納得できなければ、契約する必要は全くありません。複数の業者を比較検討するための、非常に重要な書類です。 - 【契約後】探偵からあなたへ:「契約書」の交付
説明に納得し、契約を結んだ「後」に、探偵社から最終的に合意した契約内容の全てが書かれた「契約書」が渡されます。
口約束だけで契約を迫ったり、「後で送ります」と言ってこれらの書面(特に契約前の重要事項説明書)を渡さなかったりする業者は、明確な法律違反です。
私が最初に失敗した時、この書面の説明は本当に曖昧でした。
一方で、次に契約した誠実な探偵社は、私が納得するまで、一つひとつの項目を丁寧に説明してくれました。この法律で定められた順序を守ってくれるかどうかこそが、信頼できる業者かを見極める、最初の関門なのです。
ポイント2:あなたの秘密は「生涯にわたる守秘義務」で固く守られる
「相談したことが、夫にバレたらどうしよう…」
「もし、会社に知られたら…」
その不安、痛いほど分かります。
ですが、安心してください。探偵業法では、探偵とその従業員に対して、「業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」という、厳しい守秘義務が課せられています。
さらに重要なのは、この義務が「探偵業者の業務に従事する者でなくなった後においても、同様とする」と定められている点です。つまり、探偵を辞めた後も、あなたの秘密は生涯にわたって守られるのです。
もし、正当な理由なくこの秘密を漏らせば、探偵は営業停止や営業廃止といった重い行政処分を受けるだけでなく、内容によっては刑事罰の対象になったり、あなたから損害賠償を請求されたりする可能性もあります。
ですから、あなたが勇気を出して打ち明けてくれた秘密は、法律によって固く守られているのです。
ポイント3:「違法な調査」のカラクリを知り、騙されない
時々、「別れさせ工作」や「盗聴器の仕掛け」といった、過激な調査をアピールする業者を見かけることがあります。
ですが、そうした行為は、探偵業法やその他の法律に抵触する可能性が極めて高いものです。ここで重要なのは、なぜ違法なのかという構造を理解することです。
まず大前提として、法律で認められている探偵の調査は「尾行」「聞き込み」「張り込み」といった地道な方法だけであり、探偵に特別な権限は一切与えられていません。一般の人が行えば犯罪になる行為は、探偵が調査目的で行っても同じく犯罪です。
- 「別れさせ工作」の危険性: 悪質な業者は「別れさせ工作は探偵業法では禁止されていませんよ」と説明するかもしれません。それは事実ですが、極めて誤解を招く言い方です。工作を実行する過程で、住居侵入や脅迫といった刑法上の犯罪を伴う可能性が非常に高いのです。また、恋愛関係を人為的に破綻させる契約自体が、民法上の公序良俗に反し無効と判断される可能性も高いです。
- 「盗聴器の仕掛け」は犯罪行為: 日本に「盗聴罪」という罪名はありません。しかし、盗聴器を仕掛ける行為は、ほぼ必ず他の犯罪になります。他人の家に無断で立ち入れば住居侵入罪、設置のために物を壊せば器物損壊罪です。事実上、犯罪行為なしに実行することは不可能なのです。
また、出身地や家柄を調べるなど、差別につながるような調査は、探偵業法第9条で明確に禁止されています。
もし、相談の段階で「法律スレスレの方法でやりますよ」などと持ちかけてくる業者がいたら、その瞬間に電話を切ってください。彼らは、あなたの未来ではなく、自分たちの利益しか見ていません。
まとめ:法律は、あなたの「盾」です
もう一度、3つのポイントを振り返りましょう。
- 契約時には「正しい順序」で「3つの書面」(誓約書・重要事項説明書・契約書)を必ず確認する
- あなたの秘密は、「生涯にわたる守秘義務」と厳しい罰則で守られている
- 探偵に特権はなく、「別れさせ工作」や「盗聴器設置」のような行為は、刑法や民法で罰せられる可能性が極めて高い
どうでしょうか。
法律という言葉の響きほど、難しい話ではなかったはずです。
どうか、忘れないでください。
あなたが一人で震えている時も、この「探偵業法」は、受動的なお守りではなく、あなたが悪質な業者と戦うための「能動的な盾」として存在している、ということを。
この知識が、あなたの心を少しでも強くし、正しい一歩を踏み出すための力になることを、心から願っています。
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